2人{2}


彼は付き合っていた彼女と破局した

それは、お互いなんの躊躇いもなく、あっさりしたモノだった

お互いなんとなく、そして成り行きで付き合う様な始まりだったからかもしれない


しかし心の奥では、本当はさみしかったのかもしれない

成り行きとはいえ、その期間は5年間続いたのと

そして彼女を自分の手で幸せに出来なかった事

その悔しさと悲しみから、なにもする気にはなれなくなっていた


その日を境に、彼は本当の【笑顔】を失ってしまった

彼はそんな気持ちから、途方にくれる毎日を過ごした



ある週末、彼は近所のとある公園に来ていた

そこは、これといって特別なモノがある訳ではなく

しかし、大きな公園だった


週末は、いつもドライブ好きな彼女と過ごしていた時間が多かった為、近所を一人で散策する事はほとんど無かった


週末にもかかわらずとても静かな場所だった



彼はそこで、何も考えないでぼんやりと過ごしていた

知らず知らずに『静寂な時間』だけが過ぎていった


とても静かで、気持ち良い季節柄の為か、彼はいつしか眠りについていた



それは浅い眠り……



しばらくすると、近くで耳新しい物音がした

彼はその小さな物音で、目を覚ました

そこには、一人の女の子が、彼の方を向いて座っていた


彼は少し驚いた事もあり、横になっていた体を慌てて起こした





女の子『・・・・クスッ』


彼『・・・・・』


女の子『別にビックリしなくても良いのに』


彼『・・・一体いつからそこに?』


女の子『ずっと前からここに居たよ』


彼『・・・そうかなぁ?オレが眠る前には、誰も居なかったハズなんだけど・・・』


女の子『うん、キミが眠った後に来たから』


彼『じゃあ、オレがアホみたいに眠ってる姿を、キミは面白がって眺めて居たと言うことだな?』


女の子『ううん、違うよ』


彼『でも実際、キミはオレの方を向いて笑ってるじゃないか?!』


女の子『あたしね・・・見えないんだ・・』


彼『・・・・?』


女の子『キミの姿、どんな顔をしているのか、わからないの』


彼『・・・キミは・・・』


女の子『うん、あたしね、目が見えないから・・・』


彼『・・・・ごめん・・・』


女の子『何で謝るの?』


彼『いや・・・あの・・・つまり・・・・わからない・・・・ごめん』


女の子『クスッ、キミって面白い人だね!』


彼『・・・・・』


女の子『でも・・・キミの心は、悲鳴をあげている様に感じる・・・』


彼『・・・・・』


女の子『大切にしていたモノを、無くしてしまった様な心の悲鳴を感じるの』


彼『・・・・キミは・・・』


女の子『あたしね、毎週土曜日に、ここに来てるんだ』


彼『そうなんだ・・・』


女の子『ここはいつも静かだし、とても心が癒される場所なの』


彼『・・・・・』


女の子『でも、今日はなんとなくいつもと違ってた』


彼『・・・・?』


女の子『とても深い悲しみにつつまれていた・・・』


彼『・・・・・』


女の子『キミは、最近大切にしていたモノを、無くしてしまったの?』


彼『長年付き合っていた彼女と別れた・・・』


女の子『・・・そっか・・・、キミは彼女の事を、本当に大切にしていたんだろうね』


彼『でも、些細な事ですぐに喧嘩をしたし、彼女に対して暴言を吐いた事も沢山あった・・・』


女の子『・・・うん・・・』


彼『だから、オレは誰かを幸せにする事なんか出来ない男なんだよ・・・』


女の子『・・・・・』


彼『オレは小さな人間さ!』


女の子『・・・あのね』


彼『・・・?』


女の子『人は【完璧】な人間は居ないと思うんだ』


彼『・・・・・』


女の子『確かに、キミが彼女にした事は、酷い事をしたのかもしれない・・・その結果が、別れと言う結末になったのかもしれない・・・』


彼『・・・・・』


女の子『でも、今はそれを後悔している。その気持ちがあると言う事は、キミにはまだ優しさが残っていると言う事になるよね?』


彼『・・・・・』


女の子『あたしね、目は見えないけど、代わりに人の感情が流れてくるの』


彼『・・・?』


女の子『キミはきっと、器用ではない男の子なんだと思うの・・・きっと、素直になれない人だと思うの』


彼『オレは、最低な人間だよ』


女の子『あたしには、そう感じないなぁ。だってキミは、こんなに悲しんでいるじゃない?本当に酷い人間には、こんな感情は無いと思うんだ』


彼『・・・キミは一体・・・』


女の子『あたしね、前までちゃんと見えてたんだ。普通に光を感じる目を持ってたから』


彼『・・・いつから、目が?・・・』


女の子『数年前から』


彼『病気か何かで?』


女の子『まだ見える頃、付き合ってた彼が居てね・・・あたしなりに幸せを感じてたんだ』


彼『・・・・・』




彼はしばらく、女の子の話を聞いた

彼女が光を失ってしまったのは、当時付き合っていた彼が原因だと言う事が分かった

当時の彼と、遠くに遊びに行った時、目に致命的な傷を負ってしまった

それは、彼を守る為に、彼女自らが犠牲になった結末の悲劇だった・・・




彼『その彼は今、何処に居るの?』


女の子『今は幸せになってると思うよ。他の健康な女の人と結婚したって聞いたから・・・』


彼『キミから光を奪っておきながらか!?』


女の子『あたしなんて、その程度の価値しかない女だったのよ』


彼『・・・なに言ってんだよ!・・・』


女の子『・・・?』


彼『その程度の価値しか無いとか、認めないから!』


女の子『・・・・・』


彼『キミの犠牲が無かったら、そいつの人生は幸せなモノにはならなかった』


女の子『・・・・・』


彼『そんなキミを簡単に捨てたそいつこそ、何の価値もない人間だと思う!こんな最低なオレが言うのもお門違いかもしれないが、自分の身代わりになって、光を失ってしまったキミを、少なくともオレは捨てたりしない』


女の子『キミは・・・本当に優しい男の子だね』


彼『キミの優しさに比べたら、オレなんかとるに足らない。それに、そう思うのが普通の人間じゃないのか?』


女の子『その【普通】の考えを持たない人が、世の中に沢山居るから・・・』


彼『・・・・オレは・・・』


女の子『ん?』


彼『・・・また、来週もここに来ても良いかな?』


女の子『うん!また来てくれるんだぁ』


彼『キミと居ると、心が癒されるんだ』


女の子『ありがとう。あたしね、目が見えないから、いろんな事が出来ない・・・だからキミが見たもの、感じたモノを、ここに来てあたしに沢山話して欲しい!』


彼『オレの話で良ければ、沢山話すよ!』


女の子『うん。キミの話を、心の目で・・・想像のキャンバスに描く楽しみが出来た』


彼『キミと一緒に居れば、もう一度心から笑顔になれそうだよ』


女の子『うん。あたしも、キミと一緒に居たら、本当に笑顔になれる気がするよ』


2人『・・・クスッ。』






彼と女の子は、それから毎週、その静かな公園で会うようになった。

そして彼が見たもの、感じたモノを、彼女に沢山話す様になった。


いつしか2人のやり取りは、とても微笑ましく、とても幸せな光景に変わっていった。


きっと2人は、これからもずっと、そんな幸せな時間を大切に、一生を過ごしていくに違いない・・・。


そう、元々2人は、運命的に出会うさだめだったに違いない・・・




見えない事が、不幸ではない事

そしてその事によって、今まで見えていなかった事が、見えてきたりする事もある。

彼は女の子に、その事を教わったのかもしれない

そして女の子も、光を失ってしまったからこそ、彼の本当の心の奥底にある『優しさ』に、気付いたのかもしれない。




見えない事・・・心の中の気持ちと言う感情が、本当は大切な事なのかもしれない

そう、きっとあなたの近くにも、この2人の様な存在が居ると思うから

今日と言う日を、そして来るべき明日と言う未来を大切に



小さいながらも『幸せ』と言う感情が芽生える為に。。。